須田町といえば、すぐに名店・老舗の名が思い浮かぶ。「かんだ やぶそば」もその一つ。風情に富んだこの老舗の斜向かいに、「吟ばん」はある。階段を下りて引き戸を開けると、そこはごぢんまりとした料亭の趣。靴を脱いで店に上がる、そんなささいな行為が非日常への入り口となる。左右の襖越しに個室を眺めやりながら、奥座敷へ。ああ、実にしっくりくる。障子があり、床の間がある。かつてのさりげない日常は、いまや、とっておきの非日常なのだ。
そろそろランチをいただくことにしよう。最初は「海鮮丼」。なんとも色がいい。見ているだけでそそられてしまう。宮城のメジマグロ、千葉のマダイ、北海道のウニ、高知のシラス、岩手のホタテ、そして江戸前の最高級といわれる松輪のサバ。いずれもその日の朝、築地で仕入れてきた新鮮な魚ばかりである。サバ、メジ、マダイ...それぞれがとても上品だ。口に入れてまずは食感を楽しむ。それから一呼吸置いて「じわっ」と脂の甘みが訪れる。単に脂の乗りがいいのとは違う。この時間差攻撃がたまらなく魅力的なのだ。
ちょっとぜいたくしたいときはコレ、と常連さんの支持を集める「吟定食」も外せない。皿数の多い豪華な定食だが、一番印象に残ったのは、銀ダラの西京焼。とにかくご飯が進むこと、この上ない。案の定、ご飯をお代わりし、かつすべてきれいに平らげた。随所にこだわりが光る、粋な和食の店。そんな表現がぴたりとハマった。
DATA吟ばん
千代田区神田須田町1-17 第2F&FロイヤルビルB1F
03-3252-1030
四谷見附交差点を渡り、新宿通りを四谷三丁目方面へ。二つ目の路地を左に。この辺り、一本中に入ると閑静な住宅街で、緑が目に優しい。右手にたいやきの名店「わかば」、その斜向かいに位置するのが、タイ料理レストラン「ジャスミンタイ 四谷店」だ。
ウッドデッキのテラス席を見ながら店内へ。天井が高く開放的であると同時に、ウッディーで落ち着いた空間だ。タイ人の大工が手掛けたというだけあって、細部に至るまでオリエンタルなタイの雰囲気を再現。それが自然とこの街になじんでいてうれしい。
ランチの一番人気は、見事なまでに美しい「チキングリーンカレー」。口に運ぶと、ココナツミルクが織り成すまろやかで優しい味が広がり、時間差でさわやかな辛さが訪れる。鶏肉のほか、ナス、タケノコ、ピーマンなど野菜たっぷりで、食感の違いも楽しい。フレッシュでありながら、実に深い。そんな逸品だ。
さらに強調したいのは、ご飯である。香り米とも呼ばれるタイの最高級品「ジャスミンライス」を使っているのだ。ぱらっと粒離れが良い一方、インディカ米としては粘り気もあるので、特に日本人には好まれるという。甘みがあってそれだけでも十分楽しめるが、やはりタイカレーとの相性は格別である。
万年橋を渡り、東劇ビルの裏手の路地を入る。新橋演舞場の程近く。最初は見つけにくいかもしれないが、一度訪れてしまえば、分かりやすい場所である。店の名は「CaliCari」、インド料理レストランだ。
階段を下りると、そこは高さ約6mの吹き抜け空間。キャンドルランプを使ったオリジナルのアンティーク調シャンデリアが、ウッディーな店内を柔らかく照らしている。地下とは思えないほどの開放感、まさに隠れ家と呼ぶにふさわしい。
CaliCari」のランチは、A~Dの4種とバイキングから成る。メインはいずれもインドカレー。連日複数のカレーが用意されるが、中でもおすすめは「大地の息吹きカレー(季節の野菜入り)」。福岡で専業農家を営むオーナーの実家から送られてくる「自家製有機野菜」を前面に打ち出した、飛びっ切りの野菜カレーだ。
驚くほど「すーっ」と、体に入ってくる。まろやかなルーと時間差で、野菜が強烈に主張し始める。ニンジン、ブロッコリー、ピーマン、ナス、トマト、ホウレンソウ。それぞれの甘み、それぞれの食感。すべての野菜が生き生きとしている。そして、いつの間にかさわやかな辛さが訪れていて、汗がじわっと来る。実に見事な、また注文したくなる野菜カレーである。
DATACaliCari
中央区築地4-3-11 アクアビルB1F
03-3545-4877
不忍池のほとり、上野公園の緑がまぶしい。この地に、28年の歴史を刻んできた中国海鮮料理の名店がある。店の名は「蓮風(リンフー)」という。
この店で供されるランチは、ワンプレートからコースまでと幅広い。今回はその中から「Aランチ」と「4,000円コース」を用意してもらった。
さっそく中身を見ていこう。まずは「芝海老のチリソース」から。厳選して仕入れた芝海老は、なかなかお目にかかれないほどの大ぶりサイズ。それでいて身は引き締まり、口の中に入れると"プリプリッ"とはじける。ソースも甘すぎず辛すぎず、濃すぎず薄すぎずの見事なバランス。「特製釜焼き北京ダック」は、つややかなナツメ色、パリパリの歯触り、口に入れたときのほのかな香ばしさが命だ。それらの条件を満たした丁寧な仕事が光る。パンに自家製みそを塗り、キュウリと皮を挟んでいただく。パリパリッ、サクッ、じゅわーである。
最後に「帆立貝のステーキ柚子ソース」を取り上げる。帆立の周りはカリッとしているのに、中は刺し身の状態。ソースはさらっとしていて軽い。柚子の痕跡はないのに、後味で柚子が軽やかに、力強く主張してくる。マヨネーズをオレンジジュースで割り、レモン汁、アクセントにバラの実、締めに柚子をたらすそうだ。マヨネーズっぽさは微塵もない。魔法のようなお皿なのだ。
DATA蓮風
東京都台東区上野2-11-18 ホテルパークサイドB1F
03-3831-3666
江戸川橋駅1a出入口を出て道なりに。神田川を下に見ながら江戸川橋を越えて真っすぐ。目白坂下の信号を反対側へ渡ると、目の前に「Bistro Le Soleil」はある。棚引くフランス国旗と、木の扉に飾られた太陽のオブジェ...控えめながらも雰囲気ある店構えだ。
店内は、白に近いクリーム色の珪藻土の壁面と、木のブラウンがバランスよく配され、鮮やかなグリーンのテーブルクロスがよく映える。自然の中にある色の組み合わせは、温かく心地よい。あちこちに置かれた太陽の小物たちも、微笑んでいるかのようだ。
この店のランチコースは、オードブルとメイン各4品からそれぞれ1品を選択。これに近隣の関口フランスパンのバゲットと、コーヒーまたは紅茶が付く。
この日のメインは「ビーフシチュー ソレイユ風」。純白の皿、肉厚の牛バラ、マッシュ、ニンジン、インゲン。なんとシンプルで美しいことか。
いちいちデミは作らず、バルサミコ、赤ワイン、マデラ・ポルトでソースを仕上げるという。酸味と甘味の見事なマッチング、そして何よりも卓越した煮込み。柔らかくかつ肉そのものの味と脂を堪能できる、凛としたひと皿だ。