須田町といえば、すぐに名店・老舗の名が思い浮かぶ。「かんだ やぶそば」もその一つ。風情に富んだこの老舗の斜向かいに、「吟ばん」はある。階段を下りて引き戸を開けると、そこはごぢんまりとした料亭の趣。靴を脱いで店に上がる、そんなささいな行為が非日常への入り口となる。左右の襖越しに個室を眺めやりながら、奥座敷へ。ああ、実にしっくりくる。障子があり、床の間がある。かつてのさりげない日常は、いまや、とっておきの非日常なのだ。
そろそろランチをいただくことにしよう。最初は「海鮮丼」。なんとも色がいい。見ているだけでそそられてしまう。宮城のメジマグロ、千葉のマダイ、北海道のウニ、高知のシラス、岩手のホタテ、そして江戸前の最高級といわれる松輪のサバ。いずれもその日の朝、築地で仕入れてきた新鮮な魚ばかりである。サバ、メジ、マダイ...それぞれがとても上品だ。口に入れてまずは食感を楽しむ。それから一呼吸置いて「じわっ」と脂の甘みが訪れる。単に脂の乗りがいいのとは違う。この時間差攻撃がたまらなく魅力的なのだ。
ちょっとぜいたくしたいときはコレ、と常連さんの支持を集める「吟定食」も外せない。皿数の多い豪華な定食だが、一番印象に残ったのは、銀ダラの西京焼。とにかくご飯が進むこと、この上ない。案の定、ご飯をお代わりし、かつすべてきれいに平らげた。随所にこだわりが光る、粋な和食の店。そんな表現がぴたりとハマった。
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