東京スカイツリー開業も間近に迫って一層の活気でにぎわう街、浅草が今回の舞台だ。雷門通りから観音通りに入り直進、新仲見世通りを越えて程なくの場所に、タイ・ベトナムレストラン「クロープクルア」はある。20代からホテルでフレンチを学んだ髙梨勇シェフが、アジアの旅で出会った「おいしくて毎日食べても飽きない料理」に感動し、30歳を機にタイ・ベトナム料理に転向。都内の名店で修業を重ねた後の2001年5月、浅草で独立した。以来11年、今では多くのファンが通う人気店となった。
早速だが、12種類ものランチメニューの中から、エビの焼きそば「クイッティオ パットタイ」を注文した。こんもりと盛り付けられた皿の上には、鮮やかなエビとニラの色彩。香りを楽しんでから一口いただく。日本のダシとは異なる風味、適度な辛さと優しい甘みに包まれためんは、刺激よりもまろやかさを感じさせる。続いて唐辛子やナンプラーなどテーブルの調味料を少しずつ加えて、自分好みの味付けを探していく。これもタイ料理の楽しみ方の一つ。優しい味にナンプラーでコクを追加し、さらに唐辛子をかけて刺激を楽しむ。甘みとコク、そして辛味。まさにタイを代表する料理の、さまざまなうまさの交錯が、浅草の喧騒の中での体験であるとは意外、かつ新鮮この上ない。
エビペーストでいためたチャーハンに、粗びきのポークを添えたタイの五目ちらし「カオ パット クルック ガピ」も人気のメニュー。めんよりもむしろご飯が食べたいという方は、この料理で甘みとコクと辛味の豊かな三重奏を楽しんでみてはいかがだろうか。
DATAクロープクルア
台東区浅草1-33-4 斉藤ビル2F
03-3847-3461
働く人、暮らす人、散策する人。人々が思い思いのスピードで交差するにぎわいの坂道から一歩、路地へ踏み入ると、そこは静寂が支配する伝統と風情の街並み。新宿区神楽坂。今回の舞台は「暗闇坂 宮下 神楽」、2011年9月にオープンした本格懐石の店である。
柔らかな光が差し込む玄関を入ると、美しい白木のカウンターが現れる。カウンター越しに見て取れる料理人の手さばきを感じながら、奥の座敷の個室へと向かう。落ち着いた和室には、書家・中塚翠涛の筆が白漆喰の土壁に走り、静けさの中に凛とした空気を作り出している。
さあ、ランチだ。各種ある中から「応量器弁当」をいただくことに。「応量器」とは、禅宗の僧侶が使う食器のこと。「応量器弁当」はその食器を使った懐石弁当で、小鉢、造里、揚物、温物、焼物、煮物がすべて盆に載せられ、それに御飯と香物、汁物が一緒に運ばれてくる。小鉢の前菜と造里(お造り)からはしを進める。小鉢に季節を味わい、「鯛の薄造り、マグロとヒラメ」はそれぞれ塩ポン酢、しょうゆジュレでさっぱりと。続いて車エビの衣揚げ、南瓜、赤パプリカが盛られた揚物へ。香ばしさの先にある、それぞれの歯応えがうれしい。温物「いか真丈のみぞれ煮」は、イカの軟らかさを存分に引き出した一品、ほっとする優しい味付けが印象的だ。焼物は「鰆の薫製赤かぶソースがけ」。スモークによって閉じ込められた香りとうま味が口の中で放たれる瞬間、一気にしあわせ感が高まる。美しく清々しい「暗闇坂 宮下 神楽」の懐石ランチ。老舗や名店立ち並ぶこの界隈に、この店が新たな風を吹き込んでくれたように感じた。
代々木上原。ここは、新宿、渋谷からわずかの距離にありながら、閑静かつ、豊富な緑の潤いをたたえる美しい住宅エリアだ。その一角、井の頭通り沿い、古賀政男記念館の向かいに「中國菜 老四川 飄香(ピャオシャン)」はある。四川、上海で修業し、本場の味を学んだ井桁良樹オーナーシェフが2005年にオープンした本格四川料理の店だ。
大通りの喧騒から距離を置くように、ゆったりとアプローチを進んでいくと入り口にたどり着く。店内は、モダンなデザインのテーブルやいす、幾何学模様のパーティション、サルの置物、紹興酒のかめなど、本場中国を感じさせるインテリアが交差する空間だ。カウンター越しに厨房が見え、次々と調理される料理の音を楽しむこともできる。
さあ、いよいよだ。前菜とスープ、三つの料理とデザートがセットになった「ランチコース」を注文した。スタートは前菜四種盛りから。上品な香りと優しい辛味。適度な刺激が脳と胃袋を目覚めさせ、後に続く料理を一層引き立ててくれそうである。「自家製干し肉入りどんこと白身魚のスープ」は一転して優しい味わい。シェフのシナリオ通り、食欲はここで頂点となり、次のお皿でさらに加速する。「大エビのフリッター唐辛子甘酢炒め」はカリッと揚げられた大エビのプリプリ感に、青山椒、朝天唐辛子の豊かなフレーバー。うまさとインパクト、そして感動を最大化する展開が素晴らしい。「牛頬肉と大根の四川スパイス煮込み」は、スパイスの効果で、見た目からは想像できないほどさっぱりとした仕上がりに。人気の「本場四川のマーボー豆腐」を締めに持ってくるあたり、最後まで料理を楽しませようとするシェフの意気込みが感じられた。
DATA中國菜 老四川 飄香
渋谷区上原1-29-5 BIT代々木上原001
03-3468-3486
白金台の交差点を北へ。プラチナ通りのイチョウ並木は、葉が落ちてしまっても趣がある。洗練さと個性を併せ持つ店、瀟洒な建物の連なり、行き交う人々のスタイル...なんの違和感もなく"おしゃれ"とたたえたくなる、そんな通りから少し入った場所に、オレンジのテントとトリコロールの旗が目印の「REQUINQUER」(ルカンケ)はある。本格フレンチを気軽に楽しめるビストロスタイルの一軒家レストランだ。
メニューを眺め、スタッフの説明を聞いて「ランチコースB」に決めた。前菜、スープ、メイン、デザートにパンとコーヒーが付いたコースで、前菜とメインは5種類の中から選ぶプリフィクスだ。添えられた豚のリエットとともに自家製の天然酵母パンを味わっていると、ガラスの皿に盛り付けられた前菜が運ばれてきた。「タスマニアサーモンのコンフィ、クスクスのサラダに半熟玉子」。前菜とはいえ、ボリューム十分。サーモンは脂と赤身のバランスがよく、軽快でうまい。続く本日のスープは「ゴボウのポタージュ」。ゴボウのしっかりした味と豊かな香り、玉ネギの甘さが調和して、濃厚でありながら、飽きのこない絶妙の塩加減である。
いよいよメイン、「牛ホホ肉の赤ワイン煮込み」だ。軟らかく煮込まれた肉は黒毛和牛。抵抗感なくすっと入ったナイフで切り分けていただく。軟らかさは期待通り、半面、パリッとした表面の舌触り、それと同時に訪れ、瞬時に鼻腔を震わせた香ばしさは予想外、かつ驚きの味わいであった。
赤坂サカスやビッグハットといった高層ビルが立ち並ぶエリアを離れ、赤坂通りを乃木坂方面へ歩くこと5分。永田町、霞ケ関に隣接し、古くから料亭や割烹が点在する有数の高級和食エリアに、鮮やかな山吹色ののれんがたなびいている。港区赤坂6丁目、旧町名は赤坂氷川町という。今回の舞台は和食の店「赤坂 ひかわ」。料理学校でも教鞭を執る、料理長の田中勝さんがこの場所に店を構えたのは2006年。以来、着実にファンを広げてきた割烹スタイルの店である。
ランチは6種。「金目鯛の煮付膳」とともに人気の「和牛すき煮膳」をチョイス。若い板前さんが出してくれた香ばしいほうじ茶を楽しみながら待つこと数分、グツグツと音を立てて現れたお膳は、すき煮のほかに、小鉢が2品、ご飯と赤だし、香の物、そしてデザートが載せられている。
早速、卵を溶いて、お肉をさっと通していただく。まろやかな甘辛じょうゆの割下が染みた和牛は軟らかく、程よく乗った脂が見事だ。野菜は、白菜、玉ネギ、長ネギ、水菜。それに焼き豆腐としらたき。割下に味付けられた脇役の食材たちも、それぞれの食感を主張し、うまさを口の中で放出する。小鉢は「切り干し大根の煮物」と「味噌おでん」。薄味で上品な味付けは、すき煮との相性もいい。「赤坂の割烹」で、このボリュームとうまさを味わえるしあわせ。デザートは自家製「白ごまプリン」。ごまのコクと程よい甘さで納得のランチを締めくくった。
DATA赤坂 ひかわ
港区赤坂6-15-1 ミツワビル1F
03-3586-3008